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ネット証券初!松井証券がFENNELを支援

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この記事の要約

2025年5月16日、ネット証券大手の松井証券が、プロeスポーツチーム「FENNEL(フェンネル)」とスポンサー契約を締結したと発表しました。ネット証券業界でプロeスポーツチームとスポンサー提携を結ぶのは業界初。投資啓発を重視する松井証券は、若年層との新たな接点としてeスポーツ市場に参入し、FENNELとの連携を通じてブランドイメージの若返りと新規顧客層の開拓を狙います。本記事では、両社の戦略背景や業界への波及効果、今後の取り組みなどについて詳しく掘り下げます。

異業種連携がもたらす新たな波──松井証券×FENNELの提携背景

2025年5月16日、松井証券株式会社は公式プレスリリースを通じて、プロeスポーツチーム「FENNEL(フェンネル)」とのスポンサー契約を発表しました。この発表は、eスポーツ業界および金融業界において注目を集め、Xでも「FENNEL」「松井証券」「eスポーツ提携」などの関連キーワードがトレンド入りしました。

FENNELは2019年設立のeスポーツ組織で、VALORANT、Pokémon UNITE、PUBG MOBILEなど複数の人気ゲームタイトルで活動。女性チームやユース育成部門も展開するなど、日本を代表するプロeスポーツチームとしてその名を馳せています。

一方、松井証券は創業100年を超える老舗金融企業で、オンライン証券としての展開を早期から進めてきた先駆的存在です。これまでも、大学生や若年社会人に向けた投資セミナーやSNSでの情報発信を強化するなど、新規顧客獲得に向けたマーケティング施策に力を入れてきました。

今回のスポンサー契約により、松井証券は金融リテラシーの普及とともに、若年層における証券口座開設や資産運用意識の定着を目指します。FENNEL側もこの提携によってチーム運営基盤をより強化し、世界大会などに向けた安定した活動環境を手に入れることになります。

今回の提携がユニークなのは、「eスポーツと投資」という一見結びつきにくい二者が、共通のターゲットである“Z世代以降の若年層”に向けて、それぞれの価値を持ち寄ったという点にあります。

FENNEL代表の堀元宣氏は、「FENNELは”ゲームチェンジャーであふれる世界を創る”というビジョンを掲げていますが、今回の連携はそのビジョンを体現する挑戦の一つです」と語っており、今回の契約が単なる広告的な“冠”ではなく、パートナーとしての意味を持つことを強調しました。

スポンサー契約の意図と広がる戦略──松井証券がeスポーツに目をつけた理由

松井証券がなぜいまeスポーツに注目したのか。その背景には、国内外の金融業界が直面する「若年層離れ」と、それに対するマーケティング転換の流れがあります。

少子高齢化が進む日本において、金融機関は新規顧客の獲得難に直面しています。中でもZ世代やミレニアル世代は「貯金志向が強く、投資に消極的」といわれてきました。松井証券は、こうした層に「資産運用の必要性」や「投資の面白さ」を伝えるためには、彼らが自然と関心を持つコミュニティにアプローチする必要があると判断。

その中で白羽の矢が立ったのが、爆発的に市場を拡大しているeスポーツ業界でした。特にVALORANTやLoL(リーグ・オブ・レジェンド)などは、Z世代からの支持が厚く、大会や配信も高視聴率を誇っています。

松井証券はこの数年、VALORANT国内大会「VCT Challengers Japan」にも協賛を行っており、eスポーツ業界との接点を少しずつ築いてきました。今回のFENNELとの契約は、そうした流れの中での“本格進出”と位置づけられています。

さらに注目すべきは、今回のスポンサー契約に合わせて、松井証券が独自に設けた「eスポーツ教育コンテンツ」の企画。FENNEL所属の選手やスタッフを講師役とし、「戦略的思考力」「勝負勘」「情報処理能力」など、投資に通じる要素をeスポーツを通じて伝えるセミナーをオンラインで展開するというプランも検討されています。

これにより、従来の“投資家”とは異なるアプローチでのブランド訴求が可能になり、結果として将来的な金融リテラシーの底上げにもつながると期待されています。

FENNELの強みは単なるチーム活動だけでなく、そのブランド性と多角的な事業展開にもあります。VALORANT、Pokémon UNITE、PUBG MOBILEなど複数のタイトルで日本トップレベルの成績を残す一方で、自社主催大会「FFL(FENNEL CUP)」を開催したり、アパレルブランド「FENNEL WEAR」を展開するなど、まさに“エンタメ×競技”のハイブリッド組織として進化を続けています。

eスポーツ界ではすでに「FENNELは国内トップ3に入る影響力を持つチーム」と評されており、SNS上のフォロワー数やファンコミュニティの活発度でも群を抜いています。2024年に行われたVALORANT Game Changers(女性限定国際大会)での好成績や、Pokémon UNITE世界大会での優勝なども、今回のスポンサー契約に至る過程で大きな後押しとなったと考えられます。

こうした実績に加えて、FENNELは「競技の枠に留まらないカルチャーづくり」に注力しており、Z世代のライフスタイルに自然に入り込むマーケティングを実現しています。今回の松井証券との提携によって、金融・資産運用という硬派な分野が、より柔軟で親しみやすい形で若年層に届く可能性が広がっています。

では、他に金融機関がeスポーツと手を組んだ前例はあるのでしょうか? 国内ではまだ少数派ですが、海外に目を向けると、たとえばアメリカの「Chime(チャイム)」というオンラインバンクが、プロeスポーツチーム「TSM」とパートナー契約を結び、ゲーマー向けの金融教育プログラムを共同開発する事例がありました。

また、欧州ではドイツの「Deutsche Bank(ドイツ銀行)」が、若者向けの資産形成アプリ「Zuper」のプロモーションとしてeスポーツ大会のメインスポンサーに名乗りを上げた事例もあります。これらの動きは、金融業界が“伝統”や“安心感”だけでは若者の支持を得られないという認識のもと、よりカジュアルかつ身近なチャンネルとしてeスポーツに注目していることを示しています。

今回の松井証券の動きは、日本市場では先駆的であり、同業他社にも大きな影響を与える可能性を秘めています。特に、口座開設の動機付けとして“ゲーム好き”という属性が活用できる点は、金融業界にとっても見過ごせないマーケティング資源となるでしょう。

さらに興味深いのは、FENNELが実施を予定している「金融×ゲーム思考」をテーマとしたイベントシリーズです。2025年夏以降に予定されているこの取り組みでは、ゲーム内の戦略・判断・リスク管理といった要素を通じて、自然に「お金の考え方」を身に付けられる体験型コンテンツが展開されると発表されています。

具体的には、「プロゲーマーが語る“勝負の判断軸”」「資産運用と大会運営の共通点とは?」といったセミナー形式のイベントや、FENNELファン向けの資産形成ワークショップ、さらには“投資×eスポーツ”をテーマにしたYouTubeコラボ配信などが構想されているとのことです。

これにより、松井証券は金融教育という側面にとどまらず、エンタメやゲーム文化との共創による“ファンづくり”を視野に入れた戦略を取ることになります。もはや「口座を作るためのPR」ではなく、「共感や遊びの中から金融に触れる」時代が来ようとしているのかもしれません。

なお、契約締結発表にあたっては、FENNEL代表の堀元宣氏と松井証券マーケティング部部長の長田圭司氏が登壇し、都内で合同記者会見が行われました。そこでは「Z世代に届く、新しい金融コンテンツを共創していきたい」という力強いメッセージが共有され、企業同士の価値観が単なるビジネスではなく“文化の接点”として機能していることが印象づけられました。

このような連携は、今後のスポンサーシップの在り方を考えるうえでも大きな意味を持ちます。従来の“企業ロゴ露出”にとどまらず、「一緒に新しいストーリーをつくる」という形での共創型パートナーシップは、ファンとのつながりを重視する現代型マーケティングの象徴ともいえるでしょう。

FENNELと松井証券の提携は、単なるマーケティング戦略に留まらず、eスポーツというカルチャーと金融という制度領域の“交差点”に、新しい価値の兆しを見出すものです。

現代のZ世代やα世代は、従来型の“広告”には敏感でありながらも、ストーリー性のあるコンテンツや一貫した価値観のあるブランドには共鳴しやすい傾向があります。そうした若年層の心理に対して、FENNELの「ゲームで人生を変える」というメッセージと、松井証券の「投資をまじめに、おもしろく。」という姿勢は、相補的な強みを発揮しています。

実際、記者会見や両者のSNS投稿にはファンから多くの好意的な反応が寄せられており、「金融がここまで寄り添ってくれるのは面白い」「FENNELを通じて投資に興味を持った」といったコメントも散見されました。これは、ブランディングを超えて“認識の転換”を生み出し始めている証拠とも言えるでしょう。

さらに重要なのは、FENNEL側が単なる受け身の「スポンサー枠」ではなく、積極的に企画や教育プログラムの構築に関与している点です。たとえば、すでに一部中高生に向けた「ゲーミング戦略思考講座」や、金融教育機関との連携による「eスポーツで学ぶ資産運用」シリーズが動き始めており、これは全国の教育機関への導入も検討されています。

こうしたアプローチは、今後のeスポーツ産業における“職業モデルの多様化”にも寄与する可能性があります。つまり、プロ選手になるだけではない、“eスポーツを通じて広がる未来”を描ける若者を増やすことができるのです。

同時に、金融業界においても「投資は怖いもの」「難解で手を出しづらい」という既存のイメージを払拭し、「日常と地続きの思考」として広めていくきっかけにもなりえます。特に、人生100年時代において資産形成の重要性が高まる中、こうした若年層へのアプローチは、業界全体としても長期的なリターンを生む土台となるでしょう。

企業のマーケティング活動が「社会的意義」と直結する時代において、今回のような提携は単なるニュースで終わらせるには惜しい取り組みです。ビジネスの成果としての効果測定も重要ではありますが、それ以上に、「若者が金融に触れるきっかけを作る」という文化的インパクトにこそ大きな価値があるといえます。

松井証券は今後、FENNELとの協業をさらに深め、年内にも「eスポーツ金融サミット(仮)」の開催を予定していると報じられています。ここでは、FENNELの選手やコーチ陣、松井証券の投資アドバイザー、さらには外部識者が登壇し、パネルディスカッションやワークショップを通じて“未来の投資と娯楽の交差点”を探る予定とのこと。

この動きは、日本社会における「ゲーム=浪費・娯楽」「金融=堅苦しい」というステレオタイプを越えて、双方が“人生をデザインするためのリソース”として再定義される可能性を示唆しています。

終わりに、本提携が私たちに投げかけている問いは明確です。「あなたの資産形成は、あなたの価値観とつながっているか?」そして、「今、何を“推す”かは、未来の自分をどう育てたいかとつながっているかもしれない」ということです。

ゲームが人生を変える。投資もまた、人生を変える。FENNELと松井証券のパートナーシップは、その境界を限りなくシームレスにしていく第一歩として、今後も注目され続けることでしょう。

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