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電子書店11社が決断、性的広告を全年齢サイトで停止

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この記事の要約

2025年4月末、電子コミック配信大手11社からなる「日本電子書店連合」が、性的描写を含む広告の配信を全年齢向けサイトから停止しました。子どもも閲覧するインターネット空間において、過激な広告表現への苦情が増加したことを受け、JARO(日本広告審査機構)からの指摘に基づき、業界として対応に踏み切った形です。本記事では、その背景、業界の反応、そして広告倫理と表現の自由のバランスについて、多角的に考察します。

「ちょっと待って」——子どもに届く“過激広告”への苦情が止まらない

インターネットを開くと、日常的に目にする広告の数々。そのなかでも、昨今とくに増えていたのが、性的表現の強い電子コミック広告です。

「めちゃコミ」「コミックシーモア」「Renta!」など、人気を誇る電子書店に掲載されている作品が、全年齢向けのサイトに堂々と登場し、ゲーム攻略サイトやニュースメディアを閲覧していたユーザーを驚かせていました。

とりわけ問題視されたのが、“性的な描写のある広告”が未成年者にも届く場所に表示されていたこと。

読売新聞の報道によると、2025年度にJAROに寄せられた「インターネット上の性的広告」への苦情は604件。前年比の2倍以上に増加しており、そのうち電子コミック広告は206件。しかも、その半数超が「日本電子書店連合」加盟社によるものでした。

JAROには「小学生の子どもがゲームサイトを見ていたら過激な広告が表示された」「通勤中にニュースを開いたらいきなり裸の女性が出てきて驚いた」といったリアルな声が多く届いていたとのこと。

これにより、社会的な責任を問われた格好となった電子書店業界は、ついに大きな動きを見せます。

JAROの指摘、そして「緊急会合」へ

こうした世論の高まりを受け、JAROは日本電子書店連合に正式な指摘を行います。

これにより、2025年4月30日、連合は緊急会合を開催。業界内での広告配信ルールを統一し、同日から“全年齢向けサイトへの性的広告の配信を一斉停止”するという決断を下しました。

これは、業界としての“自浄作用”を示した象徴的な動きであり、すでに5月以降、連合加盟社の性的広告に関する苦情はゼロになったとJAROは発表しています。

ただし、連合に加盟していない他の電子コミックサイトや、オンラインゲーム、医療系の広告に関しては、依然として苦情が寄せられている状態です。

つまり今回の対応は、「業界の一歩目」に過ぎないということでもあります。

電子書店連合とは何か?

「日本電子書店連合」とは、2018年に設立された、電子コミック配信大手による業界団体です。

加盟している11社には以下のようなサービスが含まれます。

  • コミックシーモア(NTTソルマーレ)
  • めちゃコミック(アムタス)
  • Renta!(パピレス)
  • BOOK☆WALKER(KADOKAWA)
  • LINEマンガ
  • まんが王国
  • ebookjapan
  • ひかりTVブック
  • music.jpブック
  • ヨドバシ・ドット・コム書籍サービス
  • Reader Store(ソニー)

国内最大級のプラットフォームが名を連ねる中、広告に対する社会的責任は重く、そのぶん今回の対応も“象徴的な出来事”となったわけです。

同連合は読売新聞の取材に対し、「社会的な批判を受け、業界全体の課題として受け止めている。広告表現の適正化や健全な運用体制に向け、連携し取り組んでいく」とコメントしています。

つまり、今回の配信停止は「広告倫理の再定義」であると同時に、「子どもや若年層がインターネットにアクセスする時代の、情報の入り口を守る」ための、業界による自発的ガバナンスの試みといえるでしょう。

広告表現の“自由”と“責任”のはざまで

インターネット広告は、表現の自由の延長にある媒体でもあります。実際、電子コミックに限らず、現代の広告はその魅力や世界観を強く打ち出すことで読者の興味を引く構造となっており、それ自体が「作品」の一部とすら捉えられています。

しかし、自由には常に“責任”が伴います。

誰が、どの場面で、どんな意図でその広告を目にするか——それを考慮せずに、刺激的な表現ばかりが独り歩きしてしまえば、ユーザーの信頼を失うだけでなく、業界そのものの信用低下に繋がります。

今回、連合は「全年齢向けのサイトでは表示しない」という“表示面”の制限を選択しました。これは、表現そのものの否定ではなく、適切な表示場所の選定という意味で、広告とメディアのバランスをとる落とし所を見出したと言えるでしょう。

読者は「不快」をどう判断するのか?

広告表現が「過激だ」「不快だ」と感じるかどうかは、完全に受け手の主観に委ねられる部分があります。

たとえば、あるユーザーは「エンタメとして面白い」と感じる一方で、別のユーザーは「下品で耐えられない」と感じるかもしれません。

だからこそ、JAROのような第三者的な広告審査機関の存在が非常に重要なのです。

JAROは、一般消費者からの苦情をもとに問題ある広告を検証し、広告主や配信元に改善を促すという役割を担っています。今回もJAROが記録していた604件の苦情がなければ、ここまでの動きには至らなかったでしょう。

つまり、ユーザーの「声」が大きな変化を生み出した——これが今回の報道の本質のひとつなのです。

一方で進む、“広告離れ”の動きも

ここで見逃してはならないのが、「広告そのものが敬遠されつつある」というトレンドです。

昨今はYouTubeでも、広告をスキップしたり、有料で広告非表示にするユーザーが増加傾向にありますし、SNS上でも「ステマ疑惑」などが相次ぎ、“広告=信用できない”というムードすら一部で漂っています。

つまり、広告は今後、「何をどう見せるか」だけでなく、「誰が、どこで、どんなタイミングで見るのか」までをトータルで考慮する時代に突入していると言っていいでしょう。

電子コミック業界はどう変わるのか?

今回の動きは、ある意味で“業界の健全化”への第一歩とも言えます。

日本の電子コミック市場はすでに1兆円産業とも言われており、紙媒体から完全に主流が移行しています。ユーザー層も10代〜50代と非常に広く、さらにスマホ普及と共に家庭内での閲覧率も上昇。

そのような環境において、「家族が一緒に見る可能性のある端末に、性的な広告が突然出てくる」リスクは、ブランド価値の毀損につながりかねません。

今後は以下のような変化が加速する可能性があります。

  • 広告クリエイティブの「全年齢モード」化
  • 表示面ごとの広告出し分けの標準化
  • AIによるユーザー属性と嗜好に合わせた広告最適化
  • 広告内容に対するモニタリング体制の強化

特に、AIによる広告ターゲティングの進化は今後、表現の「自由」と「配慮」のバランスをとるうえで重要な鍵になるでしょう。

海外の事例はどうなっている?

ちなみに、海外ではどのような対応が取られているのでしょうか?

欧州ではすでに「性的表現を含む広告のゾーニング」は法的に整備されている国が多く、未成年への接触制限が設けられています。

また、アメリカではSNS広告に対する自主規制団体が存在し、ユーザーのクレームを重視した調査・削除体制が進んでいます。

つまり、世界的にも「ネット広告はパブリックスペース」という認識が徐々に強まってきているのです。

見る自由 vs 見せない責任、あなたはどう考える?

インターネットは自由の象徴であると同時に、公共の場でもあります。

性的な表現を否定することは、決して表現の自由の否定ではありません。

大事なのは、「その表現が適切な場所に届いているかどうか」——この観点です。

たとえば、夜中にテレビで放送される映画と、朝の子ども番組の間に流れるCMでは、当然ながら“求められる基準”が違いますよね。

今回、業界が一斉に動いたのは、「どこで何を見せるか」に対して真剣に向き合う姿勢を見せたという意味で、評価されるべきだと思います。

まとめ:広告は“文化”だが、“社会”の一部でもある

今回の電子コミック業界による広告配信停止は、「広告の倫理」を見直す重要なきっかけとなりました。

私たちは、日々何気なく広告に触れています。

それが心に残るものだったのか、不快だったのか。その一つひとつが、広告という“文化”を形づくっているのです。

そして、広告主・配信元・メディア・そして読者である私たち自身——すべてが“社会の一部”として、この文化に関与しています。

これからも表現の自由を守りながら、誰にとっても心地よいインターネット環境をつくっていくために、私たち一人ひとりの「声」と「まなざし」が問われています。

あなたは、どんな広告なら“子どもに見せたい”と胸を張って言えますか?

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